影で切りつける/カンチェルスキス
俺は幸せ者だった。
そのことで
自分が幸せであることが
わからなくなったくらいだ。
暇をもてあました
老人が
こどもたちのために
黄色の旗を振る
ちょっとした横断歩道。
が、今は小学校も休みだ。
俺は信号を無視して
渡る。
道の先で
ステテコ姿の白髪の老人が
スーパーの袋一つ分の
ゴミを出す。
踏切りを待った。
駅のホームには
出勤前の人びとが
電車を待っていた。
人の少ない列に急いだ。
通過列車が近づいてきた。
何人かは
今すぐこのホームから
飛び込み
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