無題/hon
あきらめて、貯蔵庫から日持ちのする干し肉を一房取っておいた。
さて、洞窟を出るにあたって、生活の跡をそのまま残して去るというのは非常に気持ちが悪かった。俺は乾いた薪と藁を洞窟の床に敷きつめて油を撒き散らし、火をつけた。
火は洞窟の内部で燃え盛って、煙を吐き出すと、暮れなずんだ茜色の空へ向かってまっすぐ伸びていった。そのとき俺はついぞ覚えのない晴ればれとした開放感を覚えた。自分がどれほど我慢をしていたかを悟った。もとより俺に我慢しなければならない道理など何もなかったにも関わらず、繰り返される生活の日々というものは、それ自体に引きずられ感覚を磨滅させる効能があったようだった。
ところで、
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