無題/hon
 
てなかったら、俺が猛り狂って翁を殺していたかも知れぬ。さっきまで俺はそれほど昂ぶっていた。
実際、彼になにがあって、人の身でありながら人の群を離れて、このような町から遠からず近からず半端な場所の、奇妙な洞窟に引き篭もっていたのか。
いずれにせよ、とどのつまり町は老人を殺した。そして俺は洞窟を出て行く。
俺はカネを探した。彼にはもう必要ないものだからだ。
「あの世にカネは持っていけぬ」彼はよく言っていた。「それをすら知らん人間があまりに多い」
カネはどこに隠されたものか、見つからなかった。彼がいつも町に持参していた袋から、いくばくかの貨幣が見つかったのみである。しょうがない。俺はカネはあき
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