無題/hon
左にも人間がいて、立ったり歩いたり喋ったりしていた。
市場ではあちこちでうまそうな肉や魚が調理されて並べられてあったが、そいつらに断りなく手を出してはならないのも決まりごとだという。それを手に入れるには対価となるカネが必要なのだ。カネを介して人間たちはモノをやりとりしている。
いつも町から帰るときは、俺はようやく離れることのできる人の群にうんざりしていた。
「あいつら、一人残らずぶち殺したら、俺はすっきりするね」
俺がそういうと、老人はくっくっと乾いた笑い声をたてた。
「あの連中がまとめて消えれば、さだめし痛快であろう」彼はちらりと俺のほうを見た。「わしも昔はそんなことを考えた」
町で
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