無題/hon
 
きれば、町へ買い出しに出かけた。買い出しの時は、足腰の弱った老人に代わって俺が重い荷物を持った。
洞窟の老人は名をジグといって、町に知り合いが多くいるようだった。町を歩き回りながら、普段家にいるときとは別人のような朗らかな顔と声で、出会う人ごとに挨拶を交わしていた。


町で老人がモノを取引する時は、俺は黙ってそれを見ていた。俺は人間の生活というものをよく観察しなければならないという。
俺は町というやつは苦手だった。路地の陰からあるいは建物の中から、次から次から人間の沸いて出てくる町という場所は、俺にはずいぶんと気分の悪いものだった。皆が同じような顔をしていた。人、人、人……。右にも左に
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