砂上の手紙/蒸発王
八月十五日になると
毎年訪れる浜辺があって
太平洋に面したそこへ
母を連れていくのが
夏の慣例だった
『砂上の手紙』
空襲で
顔面に火傷を負った母は
ひどい弱視で
年を越すにつれ
ほとんど見えなくなっていった
それでも
気丈な人で
曇った視界の中
女手一人で私を育て
点字を勉強して
年をとってからは
図書館に通いつめては
新聞や物語を読んでいた
つらつら と
母の細い
しわじわした爪先が
点字の水玉をなぞるのは
流れるように滑らかで
小さな粒と会話しているようだった
父は軍人で
終戦直前に
太平洋に浮かぶ小島
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