夏の日の幻想達 十一/soft_machine
 


遠くへ行かないか

青葉を茂らせたさくら
懐かしい焦土の奥深くで白い根を拡げ
燃え残った一冊の本を掴んで離さない
同じ行を繰り返す瞳にいつの日か
新しいうたが零たれると信じ
宙は時代の真空に目を見張る
真空ですら無ではないのだ
それが亜人の屍に花ふらせるさくらだ
ゲルニカの粒砂が浮いた風に飽き
少年の翳した指のすき間から語りくる

もっと遠くへいかないか

地上に未練を残して
恋し産み争うだけが
人の道ではない
もうすこしで宙の秘密が
沈黙の奥に爆発してくる
夢のまた夢が現実のように奇跡であり
悪ではあるが罪ではないのだと
光は偏りながら振返り
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