台風のクジラ/蒸発王
台風一過の夕焼けには
いつだって
涙を浮かべて
手を振ってしまう
『台風のクジラ』
僕は台風の前日には
落ち着かない子供だった
ずんずんと迫ってくる
雲の足音や
いつもは素通りしていく風が
強く
早く
絡みつくように旋回するのが
とてもドキドキして
南海で台風が生まれるたび
経路を聞きつけて
自分の町を通らないと知ったときなんか
すごくがっかりした
その日もちょうど
そんな風にがっかりしていて
団地の屋上で
一面に広がる
桃色の夕焼けを見ていた
嵐の前には
空気のせいか
夕日はいつも
蛍光塗料をまぶした桃色になる
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