台風のクジラ/蒸発王
る
玉虫色の光彩に目を細めると
西の空で
ずんずんと迫る台風の匂いがして
無性に悔しくなって
東の空に向きかえると
そこに
白いクジラが泳いでいた
口元が
穏やかに
眠るように笑っている
クジラは月ほどもある
大きなヒレを動かして
西へ向かっていた
西の空は
台風が来ていて
危ないのに
僕がクジラを止めると
クジラは白い鬚を
ゆるゆると緩ませ
台風の雲を食べるために
行くのだ
と笑った
広大な雲の海を泳いでいる
彼は
全身がきめ細かい雲で出来ていて
エサは大きな雨雲だという
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