【小説】月の埋火/mizu K
同じようなことを経験なすった方がいたのでしょう
か。不思議ですね。そういって祖母は笑った。
その球は大切にしまっていたはずなのだが、幾度かの引っ
越しのうちになくしてしまい、再びこの家に戻ってきたとき
は、祖母はひとりになってしまっていた。
老いては子に従えといいますか、さりとて従う子はなし。
まあ、かわいい孫はここにいますがね。
やだ、かわいくないですよ。この前小さな子に生まれては
じめて“おばちゃん”って声かけられましたし。
祖母はこころなし笑ったようだった。
どどどう、どどどう。
潮がうねり、砕ける音が聞こえる。今夜は遅い下弦のはず。
夜は長い。天
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