ドリーはせせら笑う。/錯春
 
が特別うるさくて、僕はいつまでたっても広がらない他人の下腹部をしつこくいじっていた。汗ばかり流れて、苦い失敗の記憶は流れることはなかった。
 あれは夏で、クーラーなんてたいそうなものは持ってなくて、若い人達は不自然に豪奢なレースの厚着をして、リストカットを趣味にしていた。
 あれは夏で、涙も鼻水も何のありがたみも無く、その宝石みたいな価値もわからずに垂れ流して、罵りあうことこそコミュニケーションだと信じていた。

 あれは夏で

 僕は
 あの夏の優しい人達を
 狭い入り口を
 饐えた匂いの袖を
 キッチンペーパーに沁みた血を
 あれは夏で
 塩水なんかじゃなく、それは涙だ
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