ドリーはせせら笑う。/錯春
 
涙だったんだと、
 今なら言えるのに
 あの優しい人達の名前を
 思い出すことが出来ない。



 ドリーが呼び鈴を鳴らす。
 ドリー。
 ドリー。ドリー。
 君を忘れるのは嫌だ。
「唇が荒れてるわ。胃が弱ってるのよ」
 優しいドリー。
 ひづめは冷たくて心地良い。

「本当は忘れてって思ってるの」

「本当はね」

「でも今のところはここにいるわ」

「貴方が呼ぶんだもの」

 

 もう煙草を欲しがらない君を見て、僕は必死に気付かないようにしている。
 ドリー。
 我侭なのは百も承知さ。
 ただ、慰めてよ。
 せせら笑って。



 僕のドリー。




     (クローン羊のドリー、
      2003年2月14日、
      安楽死で永眠。
      ※この詩は
      『ドリーは吸殻を捨てる』
      の続編です)  
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