小品/Utakata
 
るたびに、台風が来た中学校の昼休みのことを思い出す。正午過ぎのくせに夕方のように薄暗い廊下を、友人たちと走り回ったことは覚えているのだけれど、その中に絶対に混じっていたはずの一人が、卒業アルバムのどこにも見つからなかったことに気付いたその日、外では救急車のサイレンがゆっくりと過ぎ去っていった。

4.
荷物を整理していたら、ずっと前に買った古いCDが何枚か見つかった。ピアノの前に座った黒髪のおんなが、カメラに向かって笑いかけている。何か大切な思い出の曲のはずだった。ジャケットに写っていたセピア色の女の姿が、ひどく長い間瞼の裏に残るのだがその思い出が何なのか、実際に曲を聴いてみても、もう思い出
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