じっとりと雨に濡れた夜の草の匂い/円谷一
で濁った水面に真剣に目を懲らして探し始めた 左足の親指に唇らしきものが当たったのだ しばらく探しているともっと奥に興味が散りどうでもよくなり少し前に進んでいった 捲し上げたジーンズはすでに濡れてしまって 後悔が先立ったが 思考を足の裏に回していって踏ん張った 自分が流されているように見える 次第に頭が混乱してきた ここは何処? 私は誰? 今は地球が何回回った時?
様々な感情が胸の中で交錯していって はっとして富士山を見た 川の流れが聞こえて景色が元に戻って新幹線が鉄橋を通過してじっとりと雨に濡れた夜の草の匂いがして口元まで水が来ていた
無意識にフルスピードで後ずさりしてずぶ濡れになった服に嫌悪
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