感傷的な夏より?連弾する午後の夢/前田ふむふむ
 

蔽っていた。
なつかしい少年の頃の、父の手、母の手が、
草笛のように、やわらかく見えた。
わたしは、噎せ返るような草のにおいの在りかを
瞑れた意識のなかで反芻しながら、
淡い声を零して、追いかける。

なにを。――祖父の、父の、とりとめのない水脈を。
意識のふもとから、
遠く閃光が、うすく開いた眼球に映ってくる。
――溢れるひかりの波。

心電図の波形が、鼓動を取り戻して、
世界は、医師たちが見守るエタノールの海を
泳いだ。

・・・・・

わたしは、使い古された語彙が、
寝静まるベッドで、
誕生の産声をもたない、
二度目の、――始めてからは、断絶した
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