鳳仙花/蒸発王
くて
目をこらしているうちに
彼はこと切れた
その後
彼の引き出しから
右目を私に譲るという手紙が発見され
形見のつもりで
彼の右目を宿した
それが間違えだった
後から入った
右目の記憶が
脳髄を蝕む
信号を無視した脳は
いつだって
あの時の鳳仙花の匂いを感知して
鼻の奥を突き刺すような芳香が
昼夜問わず私を包んだ
目を開けている間は
右目を失った時に
泣けなかった分の涙を
彼の右目がとうとうと流し
瞼を閉じれば
彼が刻んだ最後の記憶
刹那の水晶体が映し出すのは
今際の際の
歪んだ
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