鳳仙花/蒸発王
 


私の右目は光を失い
それでも
彼の泣き顔を思うと
特に悲しみを感じなかった


数年後



彼は
故郷を裏切り
国を騙し
革命を捨てて

逃げた


追手は 私


いつも傍にいたのに
何も気付けなかったことへの
罰か

それとも
恩情だったのか


傷だらけになりながら
彼を追いかけ


求めて



真夏の夜半
鳳仙花の咲き誇る
国境沿いの森の中で

彼の首筋に刃物を突きたて


殺した



眼は
逸らせなかった
彼の瞳には
歪んだ私が映っていのに
どうしてもその表情が見えなくて
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