置き去りカンバス/悠詩
消してしまう前に
醒めかけた陽炎の漂う丘は
濃い闇に覆われていた
ぐずぐずの三脚に支えられたカンバスは
ためらいもせずに胸を張っていた
泣きながらカンバスに縋りつき
がむしゃらになって目を凝らす
ここはどこだっけ
描かれたのはいつだっけ
この女の子は
この男の子は
誰だっけ
わたしが懸命になって手をつないでいる
この子は誰だっけ
わたしはなにをしにここに来たんだっけ
もうすぐ消えようとしている世界に
わたしはなにをしに
来たんだろう
わたしの住んでいたこの世界を
わたしは捨ててしまったのに
消そうとしていたと
いうのに
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