置き去りカンバス/悠詩
 
が欲しくなり
右手が伸びる
カンバスに触れると
拭い忘れていた指先の虹色の絵の具が
幻を拒み
火花を散らした

痛みを訴えて天を仰ぐと
鬱蒼と繁る大樹の枝の向こうに穴があき
ひとひらの紙が舞い降りた


「忘れているから忘れ物なんだ
 憶えているんなら持ってこられるはずだから」


  +   +

なにかに不満を持ち
なにかに逆らい
「これだからオトナは」という
セリフを呟くたびに
わたしが大きくなった時にはと
強く誓う

誓いは信頼をつくり
信頼は裏切りを生み
年を重ねるごとに
裏切りの恐怖に晒される

オトナになるのが恐い子供

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