その男/草野大悟
 
家の中には、ついさっきまで
喧嘩していた彼女が
下を向いて座っていた。

随分後になって
その次の日に木刀を買ったのだ
と、男から聞かされた。



男とは
よく
喧嘩した。

結納の席で、
正月に集まった時に、
酒を飲んで
帰れ、帰らない
の大喧嘩だった。
彼女も、彼女の母親も
そんなおれたちを
似たもの同士と
放っておいた。




彼女との結婚式の時
男は泪を堪えるのに懸命だった
それまで、一度も仕事を休んだことのない男が
結婚式の後、三日間寝込んだことは
娘の結婚式で鬼が寝込んだ
と、職場の語りぐさになった。

男は、結婚
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