詩と詩論(その2)/生田 稔
 
名となりて
雲こそ西に日を蔵(つづ)め

覆(さき)輪(べり)淡き富士が嶺(ね)は
百里の風に隔てられ
麓に靡く秋篠の
中に暮れ行く葦(あし)穂山(ほやま) 

雨雲覆う塔(あららぎ)に
懸かれる虹の橋ならで
夕の光筑波根の
上を環れる夕暮や

雪と輝く薄衣に
疼める胸はおほひしか
朧気ならぬわが墓の
影こそ見たれ野べにして

雲巻きあぐる白龍の
角も裂くべき太刀佩きて
鹿鳴く山べに駒を馳せ
矢を鳴らししは夢なるか

終焉(わかれ)の際に辛うじて
魂、骸(から)を離るまで
寂しきものを尾上には
夜は猿(ましら)の騒がしく

水に映らう月の影
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