蜜色の夢/朽木 裕
いながら彼はガツン、と目の前の何かを蹴散らした。彼の大事な、カメラを一機。黒い方は嫌い嫌い大嫌い。粗野で酷く不愉快な空気を纏うから。
「死ねばいいのに、」
溜息と共に絹の如くするり言の葉。これは黒を眠らせる魔法の言葉、だ。起きたとき彼が白に戻るとは限らないけれど。だって彼はあの日以来帰ってこない。あの、台所で、写真を一緒に撮ろうって、並んで、セルフタイマーを設定して、あれ、シャッター下りないじゃん?って二人して顔見合わせたときに下りたシャッター。和やかに笑いあって、今日これ現像したいなぁって云って、立ち上がって、台所に立って、振り返ったら手に包丁。
それからは血みどろで。あ
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