失語から生きる/岡部淳太郎
 
ろうか。体験によって日常語は消え去るが、それと同時に日常語からかけ離れた詩の言語が生れてくる。つまり、体験は日常語を死に至らしめ、代わりに詩の言語を誕生させる。そうした体験による言語の変質を経て、人は詩人となるのだ。
 先に引用した石原吉郎の「詩の定義」の中に、「失語の一歩手前でふみとどまろうとする意志が、詩の全体をささえるのである」という一節がある。いままで述べてきたように、失語とは日常語の死滅のことであり、また詩の言語の誕生をも意味する。そうすると、「失語の一歩手前でふみとどまろうとする意志」というのは、日常と非日常との間で揺れ動く詩人の主体を言い表しているようにも思えてくる。また、「詩は、
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