失語から生きる/岡部淳太郎
 
な失語の中にいた。体験の強烈さが、失語状態をつくり出したのだと言える。私も同じように、妹の死後にそれまで体験したことのなかったような失語状態を味わった。少なくとも個人的な感触としては、あれは一種の失語状態であったのだと思わざるをえない。一種の茫然自失とした感じ、それがまるで現実に起こったことではないかのような、よそよそしい非現実感。そうした失語状態の中に、私は確かにいた。
 人が詩に向かうきっかけは何だろうか。人それぞれだとは思うが、ある特定の体験がきっかけになっていたという人は、けっこう多いのではないだろうか。おそらく現代では恋愛問題がその筆頭に来るものと思われるが、ごくありふれたものであると
[次のページ]
戻る   Point(18)