失語から生きる/岡部淳太郎
 
何か」といった質問を受けて、返答に窮することがある。
(中略)
 ただ私には、私なりの答えがある。詩は、「書くまい」とする衝動なのだと。このいいかたは唐突であるかもしれない。だが、この衝動が私を駆って、詩におもむかせたことは事実である。詩に於ける言葉はいわば沈黙を語るためのことば、「沈黙するための」ことばであるといっていい。もっとも耐えがたいものを語ろうとする衝動が、このような不幸な機能を、ことばに課したと考えることができる。いわば失語の一歩手前でふみとどまろうとする意志が、詩の全体をささえるのである。}

 おそらくシベリア抑留から帰国した石原吉郎は、それまでに味わったことのないような失
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