失語から生きる/岡部淳太郎
 
吉郎の体験と似た性質を持っているということに、私は気づかされたのだ。
 社会の中で生きている限り、すべての人はそれぞれに固有の体験を持つ。石原吉郎のシベリア抑留という体験も私の妹を亡くすという体験も、固有の体験という意味では同じである。たかが家族の死と歴史上の出来事であるシベリア抑留とを一緒にするなど、あまりにも乱暴であるかもしれない。だが、体験直後の状態は似通っているのではないだろうか。それは、「失語」というキイワードによって表しうると思う。
 石原吉郎は「詩の定義」という短い文章の中で、こう書いている。


{引用= 詩を書きはじめてまもない人たちの集まりなどで、いきなり「詩とは何か
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