「ものとおん」#6/リーフレイン
 
#6
        屋根裏の姫


廃屋となった古い旅館を安価で買取り、なにやら得をしたような気分で引越しをした。築100年の余を越え、廊下の椋の板も黒ずみ真ん中がへこむ。梁や柱の材も曲がっているそのままが使われ、節があり、湧き水が流れ出すようなくねくねとした木目を見せている。長らく人が棲まいしていなかった居間が暖かい。広い玄関と一体で、囲炉裏を切った板敷きの間と畳の部屋とが隣り合っている。襖をはずせば30畳ほどの空間が広がった。この部分は天井がなく、黒くて太い梁と屋根の野地裏がそのまま見える。高く急勾配の大屋根で頭上の空間が深い。妻は嬉しそうに掃除をしている。

2週間ほどたっ
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