外に出て行くためのリスカ/佐々宝砂
った。当時、私は精神的にかなり疲れていて、誰かにどこかに連れてってほしかった、それで手首を切った。自殺未遂という行為はさすがに周囲の人間を驚かせ、私は神経科に連れてゆかれた。いま思えば私は、死にたかったわけではない。外に出て行きたかったのだ。まだ行ったことのない場所に連れてってもらいたかったのだ。神経科、精神病院という、19の私には未知だった場所へ。私は自分が精神病院に行くべきだと知っていたが、あのころはどうしても行くことができなかった。当時の私のたった一度のリスカは、病院にゆくためのリスカだったのだと思う。
リスカはひとつのこっぱずかしい告白だ。自己愛に由来するひとつの切迫した表現行為だ。
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