遺書/Utakata
 
深い穴が空いていたということをはじめて知ったんだ。はじめは恐る恐る右手の先だけを、そして最後には両腕を肩口までその暗い穴の中に浸してみても、指先は何にも触ることなく、君の薄い身体の中に空いた深いくらやみの中で途方に暮れるだけだった。君は確かその間、例のあの眼でじっと上のほうを、明らかに僕ではないもっと上のどこかを見つめていたはずだった。そう、あのとき僕らがいた部屋には天井近くに小さな明り取りの窓が開いていて、多分君はそれを見ていたんだろう。やたらと静かだった記憶があるから、もしかしたらあの時は真夜中だったのかもしれない。明かりを消した部屋の中で、君はたまたま明り取りの窓に顔を覗かせた満月をじっと見
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