遺書/Utakata
った。遊具が雨に濡れていて、近づくと鉄のにおいがした。そこには僕以外は誰もいなくて、犬の鳴き声もなかった。ただ、犬がそこにいるということだけは分かるんだ。あの犬は今どうなったのかなんて僕は知らない。けれど僕の中の風景に、その犬は段ボール箱の中に入って雨の中をずっと待っているんだ。こんなに時間が経った後でもまだ消えないんだ。子犬はいつまでも子犬のままで、箱の中で僕がそこを通りかかるのを、雨に混じった鉄の匂いの中でじっと待っているんだ。君もそんな記憶を持っているのかな。他の多くの記憶と同じように、この記憶もいつか忘れられて、そのうち忘れられたことさえも忘れられてしまうんだろうか。でも僕がそんなことを言
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