遺書/Utakata
 
同じように雨だったような気がするけれど、時間は違って昼だった。学校からの帰りだったんだと思う。道端で、ダンボールの縁は雨のせいで黒くふやけていた。そのときは僕は一人で、学校からはいつも同じ道を通って帰っていたから、その箱はすぐに目についた。その中に入っている物体も。
 おかしなことだけれど、その子犬のことは何も覚えていないんだ。毛はどんな色だったのか、それが僕のほうを見たのかあるいは付いてこようとしたのか、その子犬と段ボール箱がいつなくなったのか、いくらそのときの記憶を探っても何も出てこないんだ。思いつくのはただ風景だけなんだ。雨が降っていて、ちょうど左手に見える小さな公園の入り口のところだった
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