遺書/Utakata
 
なふうに、すこしだけずれた二つの世界を見ているんだろう。身体が持っている痕跡は時間が経っても消えない。たぶん、きっと。
 もしかしたら、痕跡なんていう言葉を使うのは、あまり正しくはないのかもしれない。けれど僕にとって、君の眼と君の眼が僕に思い出させる全てのことを考えると、どうしようもなくその二文字の言葉が頭に浮かぶんだ。君の身体の上の痕跡。あるいは、僕たちの身体の上に残る痕跡。こんなことは、やっぱり結局言えずじまいだったけれど、僕がそれを言ったところで、やっぱり君は怒ったんだろうな。

 いちど、まだ本当に小さいときに、段ボール箱に入って捨てられた子犬を見つけたことがあったんだ。その日も同じ
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