箱の隅の断想/をゝさわ英幸
 
? どこかにあるだろうが、けれど俺の進む方に果たして……」
彼はまた思う。
「雨。雨ならどこに居ても同じだ」
雨―それはあり得べからざる奇蹟であった。
かれは雨を口実に堕落し、忽ち腰を下ろした。
横になり、伸びをしようと首を仰け反らせた時だった。
はっとした。
道があったのだ。
これまで歩んできた足跡が道になっていたのだった。

――己が足で造った道。
  その果てには、青と緑で潤ったオアシスがあった。
  人々の享楽の声、生きた駱駝の戯れ、
  仲睦まじき鳥の囀り、麗しき菫……だが、起き上がらなかった。
  体がもう言うことをきかない。
  それにも増して、そこは余
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