家族カンバセイション (前編)/たたたろろろろ
 
みに勇気を得た。よし、がんばろう小野先生もついている、と真知子が診察室の窓から外を見ると、雨が降り始めていた。



 タクシーの中は春だというのにひどく蒸し暑かった。壮太は外を流れる風景を見ては、あーあーーなどと白痴のような事を言いながら腕をぶんぶと振りまわし、左手を運転席の後ろのシートにぶつけて痛がり、おお偉い半泣きで我慢したかと思うとまだ振りまわしていたほうの右手を、タクシーには必ずついている運転手と乗客を物理的にも心理的にも断絶するあのアクリル板にぶつけて今度は全泣きになるなど、やりたい放題であった。

 真知子はあわてて壮太を宥める。不幸中の幸いか、真知子はガラガラの名手であ
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