湧き水湧く流れ/錯春
 
手をあるべき形に戻していく。
 私は、お留守番を命ぜられた爬虫類のようにとぐろを巻いて、自分の堤防を押しやる衝動と激情を押しとめる。
 蒸発した体温が噴きだまったタオルケットに手を差し入れ、連れ合いの太腿の中心に横たわる彼に、ゆるやかにふれる。発熱するオトコノヒトの温度が、爪を伝わって、肘を駆け抜けて、私のまなじりまで、会釈をしながら礼儀正しく闊歩していく。
 それはあたたかい魚のようなたしかな存在。それは何ものも産まないえんぴつの芯。
 体温が上がる連れ合いと、過呼吸になった魚を撫でながら、私は注意深く土手沿いを歩く。
 空は曇っていて、見上げると天使の代わりに傷跡ばかりの鎖骨が見えた
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