湧き水湧く流れ/錯春
ので、私はそれが病気なのかどうか判らなくなる。
今ではそれも治り、耳の中の水は消えたのに、たまに、両耳の間から水音が聴こえる。それは赤い南天の実をまぶしたはかない斑の土佐錦で、反り返った尾を揺らしながら、そっと泳ぎ回る。
その土佐錦は、目を凝らすと上京して初めて飼った土佐錦で、それは冬に買い始めて春が来るまでに死んでしまった。
耳の中でその土佐錦は私の思考の澱を食べてどんどん大きくなる。
そのことを連れ合いに話したら
「それは、あれでしょう。足を失った患者が、無くしたつま先の痛みを幻視するという錯覚の一種」
といともカンタンに切り捨ててくれた。
ああ、そうかもしれない、
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