湧き水湧く流れ/錯春
 
淀む音が聴こえる。
 それは、記憶。遠い昔に忘れてしまった病気の鼓動。
 私は病に臥せっている連れ合いの背中を眺めながら、この記憶すらも狂おしいほど愛おしく思っている自分に恐怖する。
 そしてこの愛情が尽きるまでは、詩人にたどり着けないと絶望もする。
 私は未だに自分が詩人になりたいと思っているのかすら判らないのに、気儘に絶望を手の平で捏ねる。



 ?,ミミトサキン



 滲出性中耳炎という病気を患っている、いた。遠い昔、まだ水中で目をあけることができなかった頃に。鼓膜の内側に水が溜まる病気で、耳を降るとちゃぽちゃぽと可愛らしい音がする。それはあまりにも可愛らしいので
[次のページ]
戻る   Point(2)