湧き水湧く流れ/錯春
 
濃くしていき、私の住んでいた地域はカルカヤチョウ、という名前で(その由来は増水の度に氾濫した水がその地域を襲って、水が引いた後は生い茂った萱をからなければならないから)、雨が降ると一切家の外に出れなくなってしまった。
 今でこそ滅多に浸水もしなくなったが、台風の晩は用心して家族みんなで二階で寄り添って眠った。どんな晩でもすぐに眠る両親は心強く、同時に取り残された気分になって私は自分が夜の湿気に溶け出していかないように、皮膚の周りにぬいぐるみで堤防を作った。
 そして、眠ると決まって河の夢を見た。土手いっぱいにたぷたぷと揺れる水面は葛饅頭のように可愛らしい曲線で、なだめすかす風にさえも身体を震わ
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