おきてなくこの/錯春
 
たかは覚えていない
 夜になってから噴出すような高熱を出して
 明け方私は起き上がって
 君は起き上がらなかった
 
 ただそれだけのことで
 私は気付けば東北の地を離れて平気で埼京線に乗ってたりで
 思い出の水槽の中で
 君は少なくとも七十歳は越えていて
 
 ずっと土と野菜と季節ばかり触っていた君が
 一番多く触れていた皮膚は私の前頭葉で

 思い出が都合が良いのは私自身が一番よく知っているのに
 
 杉の木に雪が天麩羅粉みたいに纏わり付いて
 君の背中は頑丈で

 ねんねこ、しゃっしゃいまーせー
 
 な、くーこーのー、こ、もーりーうたー

 おき
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