新川和江氏への手紙 〜名詩を読む?〜 /服部 剛
 
 
ここに 位置づけられていたのであろう 
干満の差の少ないこの湾岸では 
みち潮の時にも 
すぐそばまで波はくるが 
岩までは 届かない 
サンダルを履いたわたしの 
つま先さえ 濡らすことは無かったのだ 
雨でも降らぬかぎり 
岩は一日ぢゅう乾いている 
千年前にいちどだけ 
波の舌が岩の根にふれたと 
考えるのは あまりに浪漫的である 
わたしはひととき 
ここで潮風を深く吸いこみ 
少しばかり書物を読む 
はたはたと頁がめくれ 
またたく間に 千年が過ぎてゆく日もある 
次の日もきてわたしは又 
さかしらに書物をひらくが 
わたしには 何ひとつ読みと
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