新川和江氏への手紙 〜名詩を読む?〜 /服部 剛
ここに 位置づけられていたのであろう
干満の差の少ないこの湾岸では
みち潮の時にも
すぐそばまで波はくるが
岩までは 届かない
サンダルを履いたわたしの
つま先さえ 濡らすことは無かったのだ
雨でも降らぬかぎり
岩は一日ぢゅう乾いている
千年前にいちどだけ
波の舌が岩の根にふれたと
考えるのは あまりに浪漫的である
わたしはひととき
ここで潮風を深く吸いこみ
少しばかり書物を読む
はたはたと頁がめくれ
またたく間に 千年が過ぎてゆく日もある
次の日もきてわたしは又
さかしらに書物をひらくが
わたしには 何ひとつ読みと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)