従順/hon
しぶりに訪れた感があった。そこは水の流れがどこにも通じていない澱んだ水溜りであり、平らかな水面はいつも深い緑色に濁っていた。周りは何の手入れもなく伸び放題の雑木や朽ちた倒木に囲まれており、昼であっても薄暗さを感じさせる不吉な景観であった。
子どものころ、その沼の真ん中のあたりから気泡がぽつぽつと浮かび上がっているのを見たことがあった。そこで私は、何か得体の知れない生物の潜んでるという妄想をたくましくさせられたものだった。
そういえば、私はその沼に沈みかけたことがあった。ある日のこと、ちょっとした気まぐれでその沼のふちにある砂浜に降りて、溜まった水の瀬戸際まで進んで水面を覗き込んでいたところ
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