静かな氾濫をこえて?四つの断章   デッサン/前田ふむふむ
 
わたしを見ている。
傘では、精神病棟の原色の色紙を
切り分けることができないのだろうか。
後姿が、わたしの神話のなかに溶けてゆく。

仄暗い夢のなかの、
古いピアノの置かれた部屋で、
透きとおる唇が、翔ることがある。
水底のような落ち着きを、
少女は、あの音階の上にだけはみせる。
人形のように、瞬きもしない、わたしの眼のなかで、
少女が、手紙を書いている。
夥しい追伸の記憶。
そんなとき、遠い日の彼岸花が、いま、
燃えるように咲いている。

      3

思い出したことがある。
眼が眩むデザインのイルカが、空を飛んでいる。
それに、目線を合せず、眺めるこ
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