新茶の季節<散文編>/佐々宝砂
みにしたのを大きな網袋にどっさりいれて、軽トラックの荷台に積み、祖父母は自転車で家に帰り、父の運転で、母は助手席、私は網袋の影に隠れて荷台に乗り、茶工場まで走った。摘み立て新茶の網袋に埋もれて揺られることほどすばらしい経験は、この世にあまり多くない。
私が新茶の香りというのは、お茶の新芽の香りだけではなくて、あちこちにたくさんある小さな茶工場から漂う茶の香りも含まれる。茶工場の香りならば、なんとなく説明ができる。お茶の缶や袋を開封した瞬間に、お茶っ葉そのものまで吸いこみそうな勢いで鼻から息を吸ってみるといい。息詰まるほど茶葉を嗅いでみるといい。ともかく、そんな香りだ。
茶工場と茶業農家
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