新茶の季節<真夜中編>/佐々宝砂
かりの白いこと
目がおかしくなりそうで
いつもと同じ煙草を買ったのに
まるで違う味がする
歩き煙草はいけませんよと
背中から忠告するのは誰かしら
帰り道はなんだか行きより短い気がする
なんでかいつもそんな気がする
帰り道ではなんだか誰かがいる気がする
なんでかいつもそんな気がする
ほらもうすこし歩くと左手に墓場だよ
夜道に慣れた目に
焼き場だった空き地と墓の群がみえる
そういえば私の家のひきだしには
「焼き場の帰り」と名付けるにふさわしい
一葉の写真があって
まだ幼い私の夫が義父に背負われている
義父は喪服に黒いゴム長靴を履いている
親族は十
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