新茶の季節<真夜中編>/佐々宝砂
は十人くらいいて
みなこちらに背中を向けている
なんでゴム長なんか履いてるのと訊ねたら
親族で死体を焼き場で焼いたからだと言われた
そのころはまだ公共の斎場なんかなかったのだ
ということは義母はこの焼き場で焼かれたのか
まだ見たことのないお義母さん
写真すら一、二枚しか残っていないお義母さん
若くして亡くなった
苦労して亡くなった
お義母さん
お義母さんの悪癖は煙草を吸うことだったときいた
なのでお墓に煙草を供えてみた
火をつけて
お彼岸にぼたもち供えることもしなかったくせに
今さら私はなにやってるのやら
煙草の煙
そうしてここまでただよってくる新茶の香り
お義母さんともかく私は幸せですよ
あなたより長く生きることになりました
あなたより楽に生きていると思います
これからもそうでありますように
なんて虫のいい願いかしら
土手の道をゆく
茶工場の明かりがみえてくる
新茶の季節には
夜の道にも夜の墓場にも
新茶の香りがみちみちて
死者も生者もここに同じく生きているような気がする
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