ある電話/I.Yamaguchi
別れるの別れないのと押し問答を続けて、僕はうんざりしてじゃあねと電話を切った。電話を切ったとき、うな丼の入っていた器はすでに空になっていて、僕は喪失感とかそういう叙情よりも先に洗い物をしなければならなくなった。
彼女が寝る前に電話をかけるとき、帰ってきたばかりの僕は大抵夕食を食べるか作るかしていたので、うとうとし始めたマキのあやふやな語尾でいつも僕は置いていかれたような心地になった。できることなら、僕も彼女と同じように眠りたかったが、ここで火を見ていないと夜中に腹をすかして起きるのは確実だった。
普段電話をかけるとマキは、
「たくや?」
と僕の名前を呼んだ。何、と答えると
「たくや
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