ある電話/I.Yamaguchi
 
やふやになった。電波が悪いせいで会話がところどころ聞こえなくなった。しかし、電波が戻るとどうなの、とはっきりした声で聞いてくるのだった。
 どうなの、と聞く前に彼女は毎回、私なにを話していたの、とあやふやな語尾のまま僕に聞いた。僕は嘘に気づかれるのを恐れて、別れ話をしていたことを毎回律儀に言い直していた。受話器から聞こえるのは腐り始めた桃のような甘ったるい声だった。しかし、僕とマキのどちらがそのような声を出しているのかよく分からなかった。マキの電話からも時々僕の声が聞こえていた。僕はこれまでの話のいきさつを言い終えると、好きだよ、とつけたした。しかし、彼女は別れて、と返すのだった。三十分ほど別れ
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