ある電話/I.Yamaguchi
すると、日々成長を続けていた僕の料理はそこで一度歩みを止めた。次の成長は麻婆豆腐を作る一月後(そこで豆板醤が眼鏡を越えて目にしみる事を知った)まで待たなければならなかった。一人暮らしを始めた年が終わるまでに僕は五〇回ルーでシチューを作り、百と十日食べ続けた。
マキに三回同じ言葉を繰り返させた、と流しの水を止めて考えた。一度目は声が聞こえなかった。テレビを消して聞き返した。それも、電波が悪くて聞きとれなかった。三度マキの名前を呼ぶと、マキはさらに機嫌を損ねたらしく、大きな声で私邪魔でしょ、と言い放ったので、そこで別れ話を切り出されたのだと気がついた。しかし彼女の声は別れろ、という他は語尾があやふ
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