ある電話/I.Yamaguchi
 
れた。ただ切って、炒めて、煮るだけ、と聞いていた料理にもこれだけの注意が必要なのだと初めて知った。一人で炊事ができるまでは僕を一人暮らしにできない、と言っていた母が結局料理をさせなかったのは、僕が注意を忘れて鍋を無駄にするのを恐れたからかもしれなかった。
 それでも野菜を切り始めてから、きっかり一時間後にシチューができた。それだけのことで、僕は料理が楽なのだという自信を持ってしまった。ただ切って、炒めて、煮込んで、市販されているルーを溶かすことがその日の僕の頭の中での料理だった。翌々日にキノコスープから牛乳が吹きこぼれるのを観察し、一週間後に水で溶いた片栗粉でとろみを付けることを八宝菜で学習する
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