ある電話/I.Yamaguchi
る前とも違う甘えた声でマキ、と自分の名前を言うのだった。しかし、その後、また口をつぐんで、忘れた頃に、胸が痛いと言った。初めて会ったときより胸は見た目にも少し増えているようだった。
彼女が電話先でふさいでいるときは、僕はがんばれといい続けるしかなかったが、最近になって、僕はそれを言うことすら迷うようになった。彼女と僕が同時に熱を出して寝込んだとき、僕は痛む喉をアイスクリームと烏龍茶でごまかしながら、彼女にお大事にといった。すると、彼女は言わないでと言うのだった。人付き合いの悪い僕と違い、彼女は一日に二十人ほどからお見舞いの電子メールを受取っていた。絶対明日には治さなければならないのだと思うのが
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